本多孝好「チェーン・ポイズン」感想
タイトルは訳すと「毒の連鎖」あるいは「連鎖する毒」とでもなるのでしょうか? 人生に価値を見失った人、生きることに疲れた人たちに、ある人物がそっと毒薬を差し出す。その結果、自殺が連鎖していく。そういうドラマを暗示したタイトルのようです。
本書は二人の主人公の視点で交互にドラマが語られます。一人は、生きることに何の希望も見いだせなくなった、疲れた中年OL。もう一人は、東京都内で連鎖する、服毒自殺の原因を追う中年男性新聞記者。
OLの語るドラマが秀逸です。いくつか抜粋します。
「私が男なら、私など選ばない。若くもなく、綺麗でもなく、何の取り柄も、個性すらない女をわざわざ選びはしない。」「週に五日は雑用をこなし、残りの二日で思い切り息を吸い込み、また続く五日間。水中に身を沈めるように暮らしていく、その未来を。たとえば定年まで。あと二十年以上。それは簡単に想像できる分、絶望的な未来だった。」「考えてみれば会社で名前を呼ばれることなどほとんどなかった。私はそこでどうでもいい雑用をこなす個性のない生き物だった。」
冷静に自分を取り巻く状況を分析するメタ認知力、それを持った女性として描かれています。つまり決して彼女は没個性な人間ではない。ただ周囲が彼女の個性の価値に全く気づいていない。そういう設定です。 そんな彼女が、児童養護施設でボランティアとして働き始る、その最初の日に園長が言います。「あなたという人間は確かにここにいて、あなたという人間が生まれてきたことを私たちはうれしく思っている。」それだけは子どもたちに必ず伝えろと。だから必ず子どもたちは名前で呼ぶように。
彼女は、ひょっとして、生きる道を選び直すのではないか? そんな予感がちらりと見える一瞬です。
養護施設の小学生エリちゃんに、思い切り短いスカートを選んでやり、「簡単には見せちゃ駄目。見えるか見えないかくらいがいい」と、同じクラスの男の子をいかに自分に振り向かせるかで悩んでいるエリちゃんへアドバイス。そんなアドバイスできるくらいなら、あんた自分が若い時に何で実践しなかったんだと突っ込みいれたくなります。まあ、実践できなかったから今があるんでしょうけど。でも、こういった何でもないセリフに、バイタリティの強さ、生きる力を感じるのですね。異性の心をゲットする=生きる意欲ですから。
「二千万。それでどれだけ時間を稼げる? あんたが外で働いて、この家で暮らして、生活費をなるべく面倒を見て、役所はだまくらかしながら最低限の人を雇って、それでどれだけの時間を稼げる?」「やれる、かな」「かなじゃない。やるんだ」「あ、でも、その二千万て、何? どこから出てくるの?」「私が出すよ」「おばちゃんが?」「あと半年もすれば入ってくる予定」
ドラマが全体の3分の2を越えるあたりで、自分の生命保険金をかけてまで、養護施設を存続させようとする、彼女のたくましい言葉が聞けるようになります。ただ、このプランのためには半年後に自分が必ず死ななければなりません。子どもたちから必要とされる存在となった今も、死ぬことにまったく迷いを見せない彼女。ほんとうにそれでいいのか? 本の外から何度も彼女に呼びかけたくなります。
そしてラスト30ページの劇的な展開。そう来ましたか。
人生に意味はない。人生はむなしい事ばかりだ。それなのになぜ、わざわざそんな道を選ぶのか? その答えがはっきり見えてくる作品に仕上がっています。


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