« May 2009 | Main | July 2009 »

June 28, 2009

DVD「スカイクロラ」感想

 押井守監督の話題作、 やっと見ることができました。しかもブルーレイディスクがレンタルできたので、大画面で細部にまでこだわりまくった映像を心ゆくまで堪能。本当に大満足の一本でした。

 まず背景やメカニック関係ですが、ぼかしやハイライトを効果的に入れていて、リアルそのもの。ベスパがコーナーにさしかかると、シート下のバネがカーブの内側だけぎゅっと縮む様子まで描写するなど、徹底して細部にこだわっています。それに対して登場人物は、ほとんど輪郭のみ。色も必要最低限しか使わないというたいへん平面的な表現をしています。非現実的な描写と感じました。登場人物が、キルドレという特殊な生命であることの意味が、絵として強烈に印象づけられたような。
 しかも、静止画として見た時には非現実的なのに、動きは超リアルなキルドレたち。ほんのわずかな、何気ない仕草。それを丁寧に時間をかけて一つひとつ積み上げていくように描写していきます。
 自分たちキルドレは、戦争をするために創られた生命(キルドレ=キルとチルドレンからの造語と思われます)。ならば自分たちに生きる意味はないのか? 
 それを必死に探しあてようとしているように感じられました。

 ストーリーも強烈です。国民に平和を実感させるために、企業が代理戦争をするという世界設定からしてまず、皮肉たっぷりです。キルドレは、そのために使い捨てされる人口生命体。国際紛争はすべて話し合い(=金)で解決するという平和な社会に、生まれた時からどっぷり浸かっている日本人に、平和のために犠牲になっている者たちへの思いを馳せろと、ひりひりするような感覚で訴えているように感じます。
 老化現象のないキルドレたち。彼らは戦死した後、名前も姿も記憶も新しくなって甦り、再び戦場に戻ってくる。でも、新聞を読み終えた後、几帳面にそれを折り畳まないと気が済まないとか、煙草に火を点ける時に使ったマッチを必ず二つ折りにするとか、基本的なパーソナリティは以前と変わらない。リセットされたはずの記憶の中で、戦争という死と隣り合わせの状況の中で、彼らは自分たちが今ここに生きていることの実感を必死で探そうとする。いったい、生は死を思うことでしかリアルに感じられないのだろうか?
 風や光、毎日繰り返される穏やかで何気ない日常の中に、生を感じる一瞬。そういった繊細な描写が印象に残る作品です。

 劇中の音楽もすばらしいのですが、効果音も大変リアル。ぜひこの非現実的なのにリアルな世界を、よい環境の装置を使って体験して欲しいと思います。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 21, 2009

中野京子「怖い絵」感想

 素人さんには、ぱっと見ただけではどこが怖いかわからない絵を、歴史的背景やら、当時の美術界では常識であったらしい謎解きやらの解説を施して、読者にその絵の怖さを思い知らせてくれる一冊です。
 最初は有名な、ドガの「踊り子」の絵から始まるんですが、どこが怖いのかさっぱりわかりませんでした。当時のバレエダンサーの社会的地位を知ると、怖さがわかってくるという仕掛け。
 「受胎告知」も、キリスト教徒ではない我々には今ひとつぴんとこないエピソードです。でも、本人の意志などお構いなく、勝手に神の子を宿さなければならない女の立場に立って絵を見なさいという助言に従うと、まったく違った世界が見えてきます。いくら神とはいえ、あまりにご無体な・・・、不条理そのものの絵です。

 こんな風に、全部で20の作品の怖さを解説してくれる美術鑑賞本です。絵も美しいカラー印刷なので、解説読みつつ何度もページをひっくり返して鑑賞しました。ただ、横長の絵は、どうしてもページをまたいだ印刷になるので、綴じ込みの部分の紙面がカーブしてしまい、原画のすごさが十分には鑑賞できないところが玉に瑕。
 また、前半は言われないと怖さがわからない絵が多いのですが、後半になるにつれ、見ただけで怖さのわかる絵ばかりになってしまい、驚きが減っていく感じがしました。ネタ尽きたんですかね?

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 14, 2009

有川浩「三匹のおっさん」感想

 図書館シリーズ大ヒットの有川浩が、今回はなんとメインキャストに還暦を迎えたじいさん三人組を据えました。しかも町内限定正義の味方として、自らを「三匹のおっさん」と名乗り、悪を懲らしめ善を勧める。後半に至っては、単なる勧善懲悪ではなく、今の日本が抱える問題の一つ、閉塞した社会にどう風穴を開けるかについての提案があったり。さらにそこに、おっさんたちの娘や孫の恋バナも加わって・・・というてんこ盛りの小説です。
 従って前半は、時代劇並みに三人が次々に悪者をぎゃふんと言わせてくれるものですから爽快痛快。いいぞいいぞと調子に乗ってすいすい読んでいたんです。しかし、後半になるにしたがって、テーマが重く、難しく、当然解決方法も一筋縄ではいかなくなり、読後感もずっしりと重くなってしまうという・・・。これには作者も困ったんじゃないでしょうか? その、重くなりそうなところを、娘と孫の、ほのぼの恋話で柔らかくしてみましたというところでしょうか?

 時代劇の仕置き人や、五色の戦隊ヒーローたちがやっていることは、法的にはこれは私刑(リンチ)にあたります。犯罪者に対し、裁判にかけずに勝手に判決を下し、しかも処刑までしているんですから。その点、本書のおっさんたちは、私刑すれすれのところで、最終判断は公的機関に委ねる形をとっており、さすが還暦を迎えた大人の処置だと思わせます。ただ、おっさんたちのうちの一人が使用している武器が、一部法に触れているような気が・・・いや気のせい(笑)?

 じいさんが(いや、おっさんが)孫に「この中でワシが痛くない組み合わせはどれなんだ?」などとファッション講座を聞くシーンがあります。「無地のTシャツの上にチェックのシャツを羽織れ。裾は必ず出す。チェックとチェックは厳禁。」など基本がきっちり押さえてあり、なかなか実用的です。なにを着ればいいのかわからんというおっさんな方々は、一読されてはいかがでしょう。 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 07, 2009

田山朔美「霊降ろし」感想

 作家としては新人さんなのでしょうが、巻末のプロフィールでは1966年生まれとなっています。それなりに人生経験積んだ方の作品なんですね。

 ヒロインは女子高生。霊媒師のまねごとを、知り合いに無理矢理させられているという設定。最初は言われたとおり、霊が取り憑いた演技をしていたのが、ある日本当に霊が乗り移ったように感じ出します。

 こう書くと、なんだ、オカルト関係か? と思うかも知れません。しかし、こういった設定は、本作のテーマを語る上で用意されただけの物にすぎないと言えます。

 自分の見たい物だけを見て、それ以外のものは見ようとしないのが人間の本性。霊降ろしを依頼する人たちは、だから、自分たちに都合のよい物語を聞きたがろうとする。それを逆手に取っての偽霊媒師。詐欺行為。であるのに、この少女は、自分自身のそういった姿と真っ向から向き合い、それを自覚し、乗り越えようとする。

 ヒロインはどうやって束縛された世界から逃れるのか。自由を手に入れるために何を考え、実行したのか。四角いフェンスに囲まれた学校の屋上で、彼女は力強く、まっとうにこの世界へ関わっていこうとします。読後感は、つんと鼻にくるけれども、とても爽やかです。

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

June 01, 2009

DVD「永遠の子どもたち」感想

 何年か前に、児童虐待をテーマにしたよく似たタイトルの小説がありましたが、本作はそれとは何の関係もありません。そもそもスペイン映画ですし。
 原題は「エル オルファント」直訳すると、孤児院。制作はギレルモ・デル・トロ。前作「パンズ・ラビリンス」では色彩の恐怖に酔いしれましたが、今作は色よりも音が怖い怖い。暗いシーンが多いんです。びびりながら見ました。
 伏線の張り方が絶妙です。
 まずオープニング。子どもたちの手が壁紙を次々にぺりぺり引っぺがすと、その下から監督やらプロデューサーやらオープニングクレジットが現れるという仕掛けになっています。これは一体どういう伏線なのかと思いながら見ていました。映画中盤で気づくと思いますので書きますが、心の奥底に隠していた、思い出したくない過去が、次々に暴かれていく・・・という意味なのですね。

 さて、本作のヒロインであるラウラは37歳。幼少期は孤児院で育てられ、途中で里親がついて、孤児院から出たという経歴が語られます。孤児院には全部で6人の子どもたちがいた。その子たちが、過去にトマスという孤児に過ちを犯したらしい。

 ラウラ本人は気がついていないらしいのですが、どうやら心の奥底に罪の意識があるようです。ラウラは、孤児である自分を育ててくれた恩返しとして、シモンという名の少年を養子とし、さらには孤児院を経営しようと考えます。でも、封印している本当の自分の心、自分では気がつかない深層心理から考えると、これは過去の過ちに対する贖罪なのではないでしょうか。   

 途中でドッペルゲンガーの話が出てきます。もう一人の自分。これはヒロインの心の状態を暗喩しています。

 シモンがピーターパンを読んでからラウラに聞きます。「ウェンディは年をとる?」「そうよ、だからネバーランドには戻れないの」「ママは何歳で死ぬの」「ずっと先よ あなたが大人になってから」「僕はならないよ大人には 友達も」「友達?」「6人いる」「なるわよ」「なれないんだ」怖い伏線です。

 シモンは行方不明になります。犯人は冷静に消去法で考えると自然にわかります(登場人物そんなに多くないですから)。ラストはこの監督らしく、キリスト教的には一見ハッピーエンド、でも実は非常に残酷な終わり方をします。

 人は見たくないものを見ようとしない。この冷たい真理を、ぐさりと観客に突きつけてくる映画です。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« May 2009 | Main | July 2009 »