池上永一 「テンペスト」感想
シェークスピアの「テンペスト」とは何の関係もありません。でも、一部で絶大な人気を誇っているようなので、借りて読んでみました。
科試(科挙試験)の解答や外交のシーンは緊迫感があります。官僚、外交官の思想の駆け引き部分にも一部納得できる部分もあり、おもしろく読みました。でも、中盤に登場する宦官のキャラクターは、マンガチックで違和感ありまくりです。陰謀を張り巡らす頭脳派人物でありながら、妙な体技を持ち、格闘技では無敵。現実の人間なら、そんなこと絶対言わないだろうというようなセリフを、臆面もなくどんどん口にします。そんな人物を小説に登場させたら、リアリティがいっぺんで消え失せてしまうから、まともな作家なら絶対しません。最初からアニメ化を頭に入れたヤング向けの文庫本ならいざ知らず、上下2巻のハードカバーで、しかも琉球王朝の盛衰を描いた歴史小説として見た場合、どうにも違和感ありまくりです。その他の人物たちのセリフも、文語やオキナワの方言を多用した難解な政治の駆け引きがあるかと思えば、一転「○○、泣いちゃう!」に代表される漫画的口語が洪水のように押し寄せるなど、統一感が全然ありません。その場の勢いで、あるいは「もっとおもしろくしてやれ」という短絡的な考えで書いているように感じます。文体に関して言えば、もっと存在感のある文章を書く人は、ライトノベルの分野にもいくらでもいます。
つまり、よい部分もあるんですが、おかしな部分もあり、バランスがまったくとれていない作品という印象を受けました。
琉球独特の定型詩も出てくるのですが、当方、琉球の文法がまったく分からず(特に助動詞)しかも五七五に慣れた日本人のリズム感覚では、偶数のリズムはどうしても違和感を感じるため、これら作品中に散りばめられた定型詩が価値のあるものなのかどうか、まったく判断できません。オキナワの人になら、そのよさがわかるのでしょうか? 実際に聞いてみたら、そのリズム感がわかるのかもしれませんが・・・。
主人公は、ドラマの筋立ての都合から、運命に翻弄されなければならない立場であるらしく、主体性にやや欠ける部分があるのも、ちょっと困ります。他の登場人物たちも、ささいなことで平常心を失い、自分の立ち位置を180度反転させて、あっさりと主人公を裏切りまくります。国の中枢を任され、冷静な判断をしなければならない立場の人間が、こんな判断をするなんて、いくらなんでもありえません。話をドラマチックにするためなら何でもありですか? うがった見方をすれば、そんな人物ばかりが宮廷を支配していたから、必然的に琉球王朝は滅びたのだ。一国を導く立場にいる人間は、感情に流されて判断してはいけない。作者はそれを描きたかったのだ。という風にもとれるのですが、さて・・・。
修飾語は、つい使ってしまったというありきたりな表現が多く、逆に言えば、わざわざ書かなくてもわかるから、いっそ書かないでほしいと思う部分が多々あります。そういう冗長な部分は、読まなくてもだいたい予想できるので、どんどん飛ばすという、いわゆる斜め読みを駆使してしまいました。全体を半分に削れば、もう少し高評価になるかと。


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