万城目学「プリンセス・トヨトミ」感想
「鴨川ホルモー」の映画がまもなく封切りされることとなった、万城目学の新作です。
「鹿男~」が奈良、「ホルモー」が京都と、古都を舞台にした作品が続いたので、次はどこかと思ったらなんと、今回は大阪。ただし、今回はしゃべる鹿が出てきたり、小さな鬼が戦ったりすることはありません。設定はかなり現実的です。あまりに現実的なため、かえってフィクションとしては嘘くさくなり、楽しめなくなっています。特にラスト近くの対決シーンは、なぜこの場面が必要なのか、首をかしげざるをえません。
大阪側は、○億円も使ってこんなシステムを構築して人を集めたのはいいですけど、そのことに一体何の意味があるのでしょう? たくさん集まった大阪人たちが、結局何をするというのでしょう? 群集心理の恐ろしさを考えると、むしろ、危険な状態を作り上げているだけではないでしょうか? 東京側も、不正を暴くためになぜ、わざわざこんな危険な舞台が必要なのでしょうか? ほかにもっと効率的な方法があるでしょうに・・・。
フィクションならフィクションらしく、思い切り嘘話で楽しませるのがこの人の持ち味だったと思うのですが・・・。今作はちょっとその辺り、空振りっぽいです。主役の男の子も、性同一性障害で苦しんでいるのですが、そういう設定で書くのなら、もっとこの障害が持つ本質の部分(性を決定する生命の仕組み)について、深く掘り下げて欲しかったと思います。
タイトルが示すとおり、登場人物たちの名前は豊臣秀吉に関係のありそうなものばかりです。松平、鳥居、旭、真田、茶子、蜂須賀・・・しかし、名前見ただけで、誰がプリンセスなのか、だいたいわかっちゃいますね。
「鹿男」や「ホルモー」のように、映像化するのは難しそうです。いえ、映像化はできるのでしょうが、いかにも絵的につまらなそうです。テンポもいまいちよろしくない。それなのになんと500ページもある! 切り詰めて300ページくらいにできませんかね?
何かと森美登美彦氏と比較されることの多い万城目氏。はっちゃけたドラマのおもしろさなら万城目氏は負けていないと思います。でも文体は森美氏に及びません。万城目氏の文体は、誰でも訓練次第で書けると思います。でも、森美氏の作品から、ふと立ちのぼるにおいは、誰にもまねできない、森美氏だけの文体がなせる技。
今後もドラマティックな展開だけで勝負するなら、今のままで構わないでしょうが、森美氏のように、何でもない日常に潜む非日常を書こうと思うなら、自分だけの文体を身につけることは避けて通れない道となるでしょう。
今後の万城目氏の進む方向やいかに。


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