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January 31, 2009

桂望美「平等ゲーム」感想

 「県庁の星」が映画化されて有名になった桂望美の新作です。

 時代は今から100年ほど先、瀬戸内海に島民1600人全員平等な島があるという設定になっています。姫路港を出発し、小豆島の南を通って1時間40分の距離ということですから、おそらく香川県でしょう。島を出る人がいたらその人数分だけ、新たに移住希望者を受け入れます。主人公は移住希望者の身辺調査や意思確認を行う勧誘係という職業に就いています。

・島民の財産は共有。島民が労働で得た所得は平等に分配する。

・島では競争がない。小学校の運動会は皆で手をつないでゴールテープを切る(これ、一時期小学校の運動会で流行りましたね~)。

・島では仕事は4年ごとに抽選で交代する。

・島では食費、住居費、光熱費は不要。

・島では住民たちの投票によってルールが決められる。

 ワーキングプアにあえぐ移住希望者にとって、島での生活はまさにユートピアのように思われます。でも、これまで様々な時代と国で、ユートピア建設は何度も試みられ、いずれも失敗しているのですね。

 本作も、島民のエゴから、島の運営に破綻が生じ、共同社会が崩壊するストーリーなのかと思いきや、そうではありませんでした。ただ、主人公が知らないところで、票をお金で買う慣習ができあがりつつあり(まるでどこかの国そっくり)、それを知った主人公が是正を求めると、逆に島から追放されてしまう、という筋立てになっています。

 なぜ共産主義、社会主義は途中で挫折するのか? なぜ平等では人は幸せになれないのか? そのあたりの理由を、社会科学の専門書のような理屈ではなく、ドラマを通して読者に示してくれるので、すごく納得できますし、おもしろいです。

『社会のために生きているんじゃないからです。自分が大事です。その次に自分の好きな人が大事です。それと同じくらい自分の家族が大事です。その次に、自分や自分の大事な人が幸せに暮らせる社会も大事だと考えています。大事な順番でいうと、社会はずっと後なんです。』バーテンの岡本さんの台詞が心にしみます。

 ユートピアで純粋培養されたため、悪意をまったく持たず、天然いい人・・・として描かれていた主人公が、達成感や嫉妬など、少しずつ人の持つ複雑な感情を知っていくことで、奥行きのある自我を獲得していくドラマがまたいいです。

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January 25, 2009

菅浩江「カフェ・コッペリア」感想

 SF小説です。

 前作「プリズムの瞳」は、もし人間そっくりのアンドロイドが実用化されたら、人の心の奥底にどんな差別意識が芽生えるかを想像させてくれ、なかなかに刺激的な内容でした。

 今作は、短編小説集ですが、中には伏線の張り方が中途半端なものもあり、やや消化不良気味です。ただ、「笑い袋」はよかったです。

 将来、介護ロボットがどんどん高機能化していった時に、我々はそのロボットと、どうつき合っていけばいいのか? 「笑い袋」は、老人の視点から、介護ロボットとの付き合い方が述べられています。また、家族との微妙な距離のとり方が、ラストで変わるのもおもしろく、人との付き合い方と、ロボットとの付き合い方それぞれについて、深く考えさせられる内容となっています。

 アザラシの赤ちゃんをモデルにした癒しロボットのパロが最近売れているらしいです。老人介護施設をマーケットに考えて発売したそうですが、意外に一般家庭や個人での購入が多いそうです。早速ネットの動画を見てみたのですが、アニメ「少年アシベ」に登場するゴマフアザラシの赤ちゃん(ゴマちゃん)を思い出しました。

 近い将来、結婚しない男女が、子どもを持たないまま高齢者となる時代が必ずやってきます。そうしたら、きっとパロのような癒しロボットや介護ロボットは、必需品となるのでしょうね。

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January 18, 2009

DVD「ぼくの大切なともだち」感想

 フランス映画です。
 監督は「髪結いの亭主」「親密すぎるうちあけ話」のパトリス・ルコント。

  古美術商のフランソワは徹底した仕事人間。自分の誕生パーティーの席で「今日はある葬儀に顔を出したんだが、参列者は夫人も含めてたったの七人だった」と言ったところ、「お前の葬式には誰も来ないだろう」と突っ込まれます。さらに、共同経営者の女性からも「アナタには本当の友達がいない」とさげすまれ、ならば今月中に親友を連れてくると反論。落札したばかりの20万ユーロの壷を賭けると宣言してしまいます。この壺というのが、紀元前5世紀のギリシアの壺。親友の死を嘆くあまり、流れる涙をこの壺にためて故人の墓に安置したという、まさしく友人の証、その象徴として本作では扱われます。
 さて、フランソワは帰宅後さっそく親友候補リストを作成し、上から順に当たっていきます。そして彼は、ただちに自分が仕事以外では誰からも必要とされていなかったという事実を知ります。ショックを受け、あわてて友人を作ろうとしますが、作り方が分からない。仕方なく書店に入って「友達を作る方法」という本を探すのですが、見つかりません。恥ずかしいので店員に小声で聞くのですが、「友だちを作る方法ですね?」と客の前で大声で返され、穴があったら入ります状態に。このあたり、なかなか意地悪な演出です。

 さて、そんなフランソワ、偶然出会った人懐こいタクシー運転手のブリュノが、初対面の相手とすぐに仲良くなる特技を持っていることを知り、「友達作りのコツ」を教えてくれと迫ります。
 こうして友達作りのレクチャーが始まるのですが、そんなものは、コツとか技術とかでどうこうできるものではないわけで、当然のことながら失敗の連続。さらに、フランソワが一方的に親友と思い込んでいる小学校時代のクラスメートからは「俺たちは敵同士、お前はクソ野郎で、クラス中がお前を嫌っていた。ムカつくうぬぼれ屋。今も同じだな」と罵られる始末。おまけに、最後まで壺の競売を競った相手から「君にあの壺を持つ資格はない」と言われてすっかり落ち込みます。

 この後、ブリュノに誘われてサッカーの試合を見た帰り、いっしょにバカなことをするうちに、二人の間に友情らしき物が芽生えてくるのですが、では一緒にバカなことをすれば親友になれるのか? 相手のために自分が犠牲を払えば、相手は親友になってくれるのか? 映画は見る者に疑問を投げかけてきます。
「"誰とでも"友達になれるってのは、"誰とも"と同じ。人は孤独なんですよ」という台詞には深く納得。どんなにあがこうと、所詮人は孤独。それを直視するのが怖いから、人はいろいろなもの(ケータイとか)にすがろうとする。
 さらに映画の後半で、実はブリュノにも、今友達と呼べる相手などいないことが明らかになります。かつて親友に手痛く裏切られた過去を、今も引きずっているのですね。

 映画では、フランソワは友人がいないだけでなく、実の娘からも無視される毎日。ところがブリュノはあることがきっかけで、娘から尊敬され、信頼されます。親友を作るヒントがちらり。
「親友の条件は、相手を尊敬する気持ちがあるかどうかだ。相手を尊敬し、大切に思う気持ちがないと、その人のために自分の何もかもを投げだそうという気持ちにはなれない」以前何かの本で読んだ覚えがあります。
「苦楽をともにする、その積み重ねが互いの信頼を深め、友情をはぐくむ」というのも聞いた覚えが・・・。

 さて本作、ギリシア友情の壺がラスト30分で何度も重要な役を果たします。ぜひご覧あれ。

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January 11, 2009

福岡伸一「できそこないの男たち」感想

 前作「生物と無生物のあいだ」が大ヒットした福岡先生の新作です。タイトルにあるとおり、男ができそこないの生物であることを、SRY遺伝子の発見過程のドラマなどを交じえて論じた本です。

 女性が生物の基本仕様で、男性は遺伝子を運ぶために作られたカスタマイズ仕様、つまりできそこないのメスであるという話は、以前から様々な科学雑誌で取りあげられていましたが、本書ではそれを、アリマキを例に出して説明してくれます。

 普段は単性生殖を繰り返すアリマキ。母親の体内には、すでに子どもアリマキが、ミニチュアの形で存在し、さらにその子どもアリマキの体内には孫アリマキまでもが存在する。これを筆者はロシアの有名な入れ子人形マトリョーシカに例えていて笑えます。

 有性生殖が単性生殖に比べて有利な点として、激変する環境や新たな病原菌に対する抵抗力を有する個体が生まれる可能性を述べていますが、これも以前からあちこちで言われていたこと。本書が面白いのは、聖書ではイブ(女性)はアダム(男性)の肋骨から作られたことになっていますが、現実はその逆だと指摘するあたり。キリスト教もイスラム教も、教えが根底からぐらぐら揺らぎますね。

 男性の平均寿命が女性よりも短い理由が、男性が生物として、できそこないの仕様だからというのも、哀しいけど笑えます。男性は女性よりもがんになりやすいだけでなく、感染症にも弱い。女性の死因で男性をわずかに上回るのが老衰! というのにも笑いました。つまり女性は男性みたいに病気ではなかなか死なないというのです。

 『さて今日、オスがこの世界を支配しているように見えるのは一体何故なのだろうか。それはおそらくメスがよくばりすぎたせいである、というのが私のささやかな推察である。』

 遺伝子の運び屋という仕事が済み次第、用済みになっていたオス。交尾後直ちに死んでしまうオスはたくさんいます。カマキリなんかメスに食べられちゃいますしね。そのオスをもう少し長生きさせて、他のいろんな雑用をさせよう。食物を取って来させよう。家を造らせよう。そうやってオスに様々な機能を付加させすぎた結果が現在だという筆者の推察は、なかなか刺激的でおもしろいです。

 理科系の人間が書いたとは思えない詩的な表現があちこちにあり、読後には読者の頭の中にロマンチックな想像力が広まる。文化系人間が読んでも大満足! そのあたりに福岡先生の人気の秘密がありそうです。

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January 03, 2009

山本 弘「詩羽のいる街」感想

 2年前に「アイの物語」で日本SF大賞を受賞しそこなった山本弘の新作です。

 今回の作品はSF小説ではありません。その代わり、劇中劇の形で、SFマンガの粗筋が、ある登場人物によって語られます。超能力を手に入れた少女が世界平和を目指す話です。でも、この世に無数に存在する人々の悪意に心が挫け、少女は逆に世界を滅ぼしてしまう、そんなお話です。この粗筋、たぶん永井豪の「デビルマン」に影響を受けていると思います。

 小説は、このSFマンガのストーリーを巡って、複数の登場人物が、人の持つ悪意と善意について絶望や希望を持ち、語りあい、行動するパターンとなっています。

 全部で4話構成。特に第3話は、ネット上の言葉の暴力、差別発言などを取り扱っています。「人が憎み合い、罵り合うのを見るのが面白い。」そういう純粋な悪意を持った人物に対して、我々はどう接すればいいのか、そのヒントが示されており、かなり考えさせられました。

 本作には科学的なフィクションは出てきません。でも心はSFです。なにしろ本作のテーマは「世界平和」ですから。でかいです。どうすれば世界中の人々が憎み合わないようになれるか?

『愛とか正義とか関係ないです。そんなお題目で人間は動かせません』

 作中で主人公がはっきりとこういいます。人が争わないためにはどうすればいい? そのためのヒントはあちこちに示されます。ただ、はっきり言って実現不可能です。主人公も次のように語っています。

『あたし、この街だけで手いっぱいなんです。とても他の街の人たちまで手が回りません。それは各自で解決していただかないことには』

 そう、これは小説の世界の、この主人公だからできること。でもこのお話を読んで、自分に出来ることから少しずつ実行しようと思う人が増えれば、世の中はひょっとしたら少しずつ良くなっていくのかもしれない。そんな夢を与えてくれる、心温まる一冊です。

 本の装画は徒花スクモ、有川浩の図書館シリーズと同じ人です。したがって作品に深く関係のあるイラストで構成されています。一話読み終える度にイラストをじっと見て、ああ、これはあのシーンなんだなと確認したりしました。楽しかったです。

 巻末に、本作を書くにあたって作者が参考にした本の名前がずらっと載っています。それ以外にも、作品中には過去の名作があちこち出てきます。そのうちのいくつかを下にピックアップします。もし、お気に入りの作品名が三つ以上出てきたら、ぜひ本書を手にとってみてください。きっとツボにはまります。

・コニー・ウィリス「犬は勘定に入れません」

・アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」

・秋口ぎぐる・高井信・山本弘「百鬼夜翔 水色の髪のチャイカ」

・有川浩「レインツリーの国」(「詩羽のいる街」第一話に深く関係)

・同「図書館戦争シリーズ」(あちこちで深く関係)

・おかゆまさき「撲殺天使ドクロちゃん」

・海原零「銀盤カレイドスコープ」

・櫂末高彰「学校の階段」

・谷川流「涼宮ハルヒシリーズ」(第四話に深く関係)

・野村美月「文学少女シリーズ」

・中松まるは「すすめ!ロボットボーイ」

・永井豪「デビルマン」(第二話に深く関係)

・横山光輝「伊賀の影丸」

・島本和彦「吼えろペン」

・松本零士「思春期100万年」

・美水かがみ「らき☆すた」

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