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November 30, 2008

百田尚樹「ボックス!」感想

 ボクシング版「一瞬の風になれ」です。

 したがって、同級生に天才がいたり、同じ地区にとてつもなく強いライバルがいたり、最初は弱かった主人公がどんどん強くなって、ついには・・・みたいなストーリー展開もまったく同じです。ここまで一緒でいいんですか(笑)?

 違いは主人公に彼女ができないこと。やっぱりボクシングですから、どこかストイックです。

 私は「あしたのジョー」を中学生の頃にリアルタイムで読んだ口ですから、とことんストイックな主人公は大好きです。「そこまで自分を苦しめるのはなぜ?」「その先に燃えさかる一瞬があるから。真っ白に燃え尽きて、後には何にも残らないんだ。」夜の公園で交わす紀ちゃんとジョーの会話が、今も強く印象に残っているほどです。

『矢吹君は寂しくないの? 同じ年頃の若者が町に海に山に青春を謳歌していると言うのに…』
『俺は負い目や義理だけでボクシングやってる訳じゃねぇんだ。ボクシングってやつが好きだからやってきたんだ。
紀ちゃんの言う“青春を謳歌する”って事とはちょっと違うかもしれないが、俺は俺なりに今まで燃えるような充実感を何度も味わってきたよ、血だらけのリングの上でさ。
ほんの瞬間にせよ、眩しいほど真っ赤に燃え上がるんだ。
燃えカスなんか残りやしない。真っ白な灰だけだ』

                       (「あしたのジョー」より)

 本作は本当にボクシングに詳しい人が書いたようで、「あしたのジョー」や「はじめの一歩」とは違い、とてもリアルに試合が進行します。ノーモーションで繰り出される左ジャブの切れ味、その後に繰り出される右ストレートのおそろしさにゾクゾクし、読んでいる途中で思わず左ジャブを繰り返し練習したりしていました。100回ほど打った所で腕が痛くなりやめましたけど・・・。

 ストーリーは三人称で語られるのですが、主人公の名で語る章、顧問の先生の名で語る章、それぞれ文章に温度差があります。読んでいて違和感を感じました。筆者は本業が放送作家だそうで、やや台本的な書き方なのかなと思いました。

 あと、ラストの一文、ネタバレになるので伏せますが、あれはやめておいたほうがいいと思います。佐藤多佳子さんが苦笑いしますよ。あと、せっかくボクシング強くなったのに、それを私闘に使ってしまうのもやめてほしかったかなぁ。

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November 24, 2008

DVD「東京オリンピック」感想

 北京オリンピック開会式の演出には賛否両論ありましたが、東京オリンピックの演出は、ブルーインパルスのジェット機がスモークで空中に五輪の輪を描き、平和の象徴ハトが一斉に飛び立つというものでした。映画はハトの大群に恐れをなす選手や、ハトのフン害に憤慨する選手、いっこうに飛ぼうとしないへそ曲がりのハトと戯れる選手など、テレビの中継では見られない、ちょっと変わったシーンにカメラを向けます。

 もともとは3時間以上あったものを、市川監督が2時間に編集しなおしたのが本作だそうです。印象的なのは冒頭のシーン、鉄球でビルを破壊するシーンで始まります。思わず「あれ、間違えて浅間山荘借りちゃったかな?」と思ってしまいました。各種会場を建築するためのシーンだったんですね。

 たくさんの選手や観客をカメラは次々に撮るのですが、美女は必ずアップです。それに対して男はたいてい集団でワンカット(笑)。

 見ていて驚くのは風景の美しさ。聖火ランナーが段々畑や海岸や瓦屋根の住宅街を、もくもくと煙を出す聖火を持って誇らしげに走るのですが、1964年の日本って、こんなに美しかったんだ・・・とため息が出るほどです。富士山バックに走るシーンもすばらしい。なんだか神々しさを感じるほどです。

 競技のほうは監督の趣味で(?)カットされまくりです。アメリカ対ソビエトのバスケット決勝戦なんかほんの数秒(笑)。そのかわり、女子バレーボール、いわゆる東洋の魔女の決勝戦は克明に撮っています。

 最後、ソ連選手のオーバーネットという、映画のストップモーションで見ても、なんだかわけのわからないポイントで日本は優勝を決めるのですが、その後の、勝ったのになんとも釈然としない様子の日本チーム監督を、カメラは延々と撮り続けます。

 さて、先に市川監督は男のアップを撮らない、みたいなことを書きましたが、例外はマラソンのアベベです。先頭を一定のリズムを刻んで孤独に走り続けるアベベを、監督はアップで、スローモーションで、ロングで、俯瞰で、さまざまな技法を使って撮り続けます。おかげで、当時哲学的とまで言われたアベベの表情に、たっぷりと感情移入することができます。

 北京オリンピックは、「おお、すげえ。金と人を惜しげもなく使ってるぜ」的な感動でしたが、本作で見る東京オリンピックは、それとはまったくベクトルの違う感動でした。自然に選手の内側からにじみ出てくる物を、カメラは見逃さず捉えた。そういった人の感情の揺れ動きに対する感動でははいかと思います。よかったです。

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November 16, 2008

揚逸「時が滲む朝」感想

 芥川賞受賞作

 タイトルは平凡
 ストーリーもすでに語られたようなパターン。中国の民主化運動に燃える青年の激情と淡い恋,そして挫折である。
 では何が新しいか。
 それは,あの時代を中国人の視点で書いてあるところ。
 日本人の視点で,共産主義社会が崩壊した様はもうすでに読んだしテレビでも見た。
 身内に対する極悪非道なリンチが明らかになったため、世論の後押しを失い、敗北が決定的になった連合赤軍の象徴的事件「浅間山荘」も読んだし見た。
 文化大革命や知的階級の再教育の話もすでにいくつかの小説で読んだし映画でも見た。
 ただ,「天安門事件」は違う。その最中を中国で生きた中国人は,その時どんな気持ちだったのか? それが知りたかった。たぶんこの本を支持する多くの人が同じ気持ちなのではないだろうか?
 作中には何度も尾崎豊の「I LOVE YOU」が流れるし,主人公はカラオケで熱唱までする。
 尾崎豊の歌は嫌いだ。激情に身を任せて突っ走るのはいいが,その後どうするつもりだったのか,まったく考えていないから。一言で言えば,無責任。校舎のガラスを割る歌なんか,いい加減にしてほしい。日本中で割られた学校のガラス代をすべて弁償する気はあったのだろうか?
 でも,激情のまま革命運動に身を任せる若い二人の青年には,尾崎豊はぴったりかもしれない。痛い青さが伝わってくる。
 「理想は理想。その前にちゃんと食べるだけの金は稼がないと。」物語後半の民主化運動では,運動に参加する中国人たちの本音がどんどん出てくる。育毛剤のエピソードなど,思わずクスリと笑ってしまう。
 ただ,素材としては長編小説になるべき内容なのに,短編に納めてしまったという印象が残る。再教育を実際に受けた父や,中国残留孤児二世である妻あたりは,もっと紙数をかけて描写してほしかった。彼らのどちらを主人公にしても,一編の小説が書けそうだからである。  

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November 09, 2008

ニキ・ヴァン・デ・ガーグ「ダイヤモンドはほんとうに美しいのか?」感想

 小説ではありません。世界の美しいダイヤモンド紹介本でもありません。

 では一体なんなのか? 

 ずばり、「ダイヤモンドを買わないでください」というメッセージ本です。

 理由1 ダイヤモンドは各国のテロや内戦の資金源である。

 理由2 ダイヤモンド鉱山では、たくさんの子どもたちや労働者が不当な労働に苦しめられている(現代版蟹工船のようです)。

 理由3 ダイヤモンドは実は現在、たくさんの鉱山が発見されており、希少価値がない。我々は、巧妙な宣伝に踊らされているだけ。

 正直、私はダイヤモンドにそれほど魅力を感じたことはありません。個人的にはスターサファイヤやオパールのような不思議系の石のほうが好きです。ダイヤなんて見た目ガラスと変わらないし、ただちょっと光の反射具合が派手で、あと世界一硬いだけだろ。とか思ってました(強がり・・・)。

 やっぱり、みんな巧みに宣伝で買わされていたんですねえ。踊らされなくてよかった。

 彼女にダイヤモンドを買ってあげるお金があるのなら、それを使ってもっと別な幸せ(家を建てる資金にするとか)を彼女にプレゼントしましょう。

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November 02, 2008

映画「1735km」感想

 ベトナム映画です。

 ベトナムの北端ハノイから南端のサイゴン(現ホーチミン)までを旅する男女二人のロードムービーです。

 クリーニング店で店番をする中学生の女の子のセリフで、映画はスタートします。このお店をよく利用する画家の青年がいるのですが、彼はお話がすごく上手で、お店に来る度に、虚実織り交ぜた青春恋愛体験談を彼女に語ってくれます。本作のエンディングは、青年の話の跡を継いで彼女が想像したストーリーという設定になっています。

 そういうわけで、話のあちこちにありえない展開が見られますが、もともとが、女子中学生を楽しませるためにでっちあげた青年のお話という設定らしいですから、あまり目くじら立てて見ては行けません(笑)。

 監督の狙いは、ストーリーの展開とは別の所にあるようです。

 ベトナムの町並みが、下半分は商業主義で改装されているのに、恋する二人が寄り添って見上げると、そこには伝統的なベトナム建築の二階部分が残されていて、「きれいだね」と語り合うとか、「西洋のドレスよりアオザイがいい」とつぶやいたりとか、映画の根底にあるのはベトナム伝統文化のよさを見直して欲しいという監督の思いのようです。

 ただ、結婚に関しては、親が強制的に相手を決める伝統はよくないという考えのようで、恋に落ちた王女が駆け落ちをするベトナムのおとぎ話と、恋する二人の行動がオーバーラップされて語られたりします。

 狙いはまあわかるのですが、見終わった後、「なんてベトナムは美しい国なんだ。」と思ったかというと、全然そんなことはありませんでした。う~ん、監督さん、これは失敗作かな?

 ただ、恋愛に対する青年の語りが、ラスト直前に延々とあるのですが、それが誠実なセリフだったのは好印象でした。単に「親に強制される結婚は絶対反対」という単純なものではなく、お互いがお互いを高めあい、尊重しあえる関係が本当の恋愛ではないかというような語りです。

 まあ、でもせっかくのロードムービーなんだから、その土地その土地のベトナム料理やベトナム音楽、そこで生活する人の様子や信仰心とかを取り入れたりしたら、もっとよかったんじゃあないでしょうか? 

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