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2008/09/14

長嶋有「ぼくは落ち着きがない」感想

 作者は2002年「猛スピードで母は」で芥川賞を受賞した長嶋有。最近は「サイドカーに犬」が映画化されました。

 本作は設定が絶妙です。

 図書委員はどこの学校にでもあると思います。文芸部もたぶんあるでしょう。でも、図書部はない。図書部誕生の過程がおもしろい。図書室の業務をさぼりまくる図書委員たちに業を煮やした本好きの女子グループが、だったら自分たちが! とばかり教師にかけあって自発的に図書室の管理運営を行う図書部を発足したというのですから。

 さらに本好きの図書部のメンバーが、実は一枚岩ではないというあたりもリアル。当然と言えば当然なんですが、みんなそれぞれ好きなジャンルが違っているわけです。

 しかも、彼ら彼女らは、どうやらクラスでは浮いている存在のよう。普通ならクラスの友人と教室でお弁当を食べるであろうに、図書部のメンバーは、昼休みも放課後も、足繁く図書部に通ってきては、ぐだぐだと時間の無駄使いとでも言いたくなるような会話を交わします。図書部のみんなは、最近の普通の高校生が身につけているらしい、いわゆる周囲の空気を読んで、はずさないように自分のキャラクターを演じて仲良く暮らすというテクニックを身につけていないようなのです。「人って、生きにくいものだ」と主人公はつぶやきます。

 「本当は誰とでも仲良しだなんて無理だもの。」

 それでも本作のヒロインが、時々起こる気まずくて嫌な出来事を、なんとかやりすごして生きていけるのは「本を読んでいたことで、この気持ちをあらかじめ知っていたから。」

 図書部の部室は、図書室の一角をベニヤ板で仕切っただけ、天井近くの空間はつながっています。この中途半端な空間のとり方がまた、図書部に属する人々の、外界との距離を表現していて絶妙。

 ラスト近く、そのベニヤ板が取り払われる、つまり図書部が廃部になるという展開は、今後、彼ら彼女らが外界に出て行くことを示しています。

 特に劇的なドラマ展開があるわけではないのに、絶妙な設定と主人公の細かな心理描写の数々が、読者の心を捕らえて放しません。

 ただし、登場人物の人間関係がややこしいので、記憶力に自信のない人は私のように、登場人物一覧表を作りながら読むことをお勧めします。

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