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2006/05/29

西加奈子「きいろいゾウ」感想

 若い夫婦の物語。

 ツマの方は狭心症の持病を持っていて、時々心臓がくつくつと頼りない音をたてる。小さい頃は病院の小さい個室でいつも一人っきりで絵本を読んでいた。そのためか、普通ではない感覚を持っていて、人には見えないものが見えたりする。昔死んでしまった女の人が見えたりする。草や木や虫が彼女に話しかけたりする。

 ムコさんの方は小さい頃、大好きだったおばの首つり死体を発見し、彼女を救うことができなかった無力な自分に対する苦しみをずっと抱えている。そのためか、人の心に深く語りかける能力を持っていて、たとえばツマの、不安で押しつぶされそうな気持ちを暖かくする。満月を見ると落ち着かなくなるツマを、大丈夫だという気持ちにさせることができる。

 そんな二人の住む田舎町に、小学生の男の子がやってくる。恥ずかしいことに押しつぶされそうになって登校拒否になってしまった聡明な美少年大地君。そんな彼が、、若い夫婦と生活をともにするうちに、「恥ずかしいことってかっこわるいこととは全然違うんだね。僕、知らなかった。」と言うようになります。

 その少年大地君にひたすら猛アタックをかける地元の小学生の女の子がいます。そして、その子の言動に対するツマのつっこみが実に面白い。もっと言ってやれって感じで大笑いしました。少し引用します。

 ・・・・・・大地君が出てくると、洋子ちゃんはがぜん張り切る。腰をくねくねさせて、目をぱちぱちさせて。おばあちゃんか、としのいったお母さんかもしれないけど、その人の前で「女」を露呈するのってすごい。《中略》 洋子ちゃんは悔しそうな顔をして(あからさま)大地君の手を取ると、「今日は、ジェニーと女学生ごっこするの!」と言った。「ジェニー」(キツイ)、「するの!」(威圧的)、しかも「女学生ごっこ」(エロい)。だめだよ洋子ちゃん。それじゃだめだ。《中略》「その遊びって、僕が必要なの?」うむ、いいつっこみ、そうだそうだーひとりでやれー。「ひ、つ、よ、う、なの! 大地はぁ、リチャードっていうの。アメリカンフットボールをやってる先輩なの。」誰だ洋子に「アメリカ」を教えた人は。「パーティーでジェニーと出会うの。リチャードはぁ、飲んだらいけないのにビールを飲んでるの。」「どうして?」「悪いの、少しだけ不良なの。」こいつ、どこまで女なんだこのやろう。・・・・・・

 とまあ、こんな感じです(笑)。

 ゴールデンレトリバーはメガデス。隣のチャボはコソク。いつまでたってもなつかない野良犬にはカンユ。変な名前をつけられ、勝手にツマに擬人化され「きゃー。きゃー、楽しい! 遊んで遊んで! 誰だっけ?」とか「お、は、よ。なんか、食べもん、ない?」とかセリフを与えられる動物たち。彼らとの距離感が実に絶妙な作品です。

 前半は主にそういったのほほん、ほんわかとした雰囲気のうちにストーリーは進みます。随所に不安を感じさせるエピソードを散りばめながら。そして中盤にさしかかると、一気にその不安感が加速し、読んでいて押しつぶされそうになります。この先この夫婦はどうなってしまうんだろう? 何度か本を閉じ、どきどきする心臓を深呼吸してなだめてから読み進めたりしました。

 まだ若い作家のようですが、この独特の世界観には強く惹かれました。我が家の高一の娘も強くプッシュ! のようです。 今後の作品も要注目です。 

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