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2005/12/30

荒山徹「柳生薔薇剣」感想

 「薔薇剣」と書いて「そうびけん」と読みます。なんで薔薇なのかというと・・・

 主人公は柳生但馬守宗矩の娘で、その剣の腕は弟の柳生十兵衛をしのぐほど。しかも『雪もあざむく白い肌、黒目がちの瞳が異様に大きい。鼻筋は高貴に通って高く、いきいきと紅い唇には春風駘蕩たる微笑がそよいでいる。雅やかな美貌だが、眉がきりりと弓を張って、典雅に流れる風情を一気に引き緊めていた。緑なす黒髪は頭頂で無造作に束ねられ、その先は腰まで流れている。』というナイスなルックスの持ち主。さらに敵の迎撃準備をするシーンでは『懐刀を取り出して、尼衣の裾を膝上でざっくりと切り取った。剣術修行で鍛え上げられた、すらりと伸びた白く美しい脚線が透明な冬陽を浴びて輝いた。』ときたもんです。こんなシーンだけ読めば、まるでアニメフィギュアオタクの「萌え~」の世界です。

 ところが、そうなっていないのは、当時の江戸と朝鮮の時代背景が、実に丹念に描かれているからです。秀吉の朝鮮出兵の後、無理矢理日本に連れてこられたとされる数万の朝鮮人のほとんどが、なぜ本国に帰ろうとしなかったのか、その理由を述べた部分を読み、驚きました。当時の朝鮮は両班(ヤンバン)という一部特権階級が支配する、厳然たる身分制度の国だったというのです。『七賤という言葉が示すように朝鮮では白丁~(中略)~妓生を最下層の賤民として位置づけ差別した。妓生は官妓と私妓に分けられ、官妓は全国の官庁に隷属して遊宴などで歌舞を売り、官吏として赴任する両班の侍寝もつとめた。その身分は世襲であり、したがって官妓の娘だったうねは、生まれながらにして朝鮮という国家の性的奴隷だったのである。』という部分を読んだ時には愕然としました。おまけに、日本軍が攻めてきても、朝鮮の両班たち支配階層は、民衆を守ろうともしない。さらに援軍としてやってきた明軍は朝鮮民衆相手にやりたい放題。実質的に朝鮮は明に支配されたも同じ状況となります。こんな国の連中にこき使われるくらいなら、日本に行ったほうがよほどマシだと、被支配階層の人々が思うのも無理ありません。それでも、朝鮮の使節が彼らの本国送還を要請した時、徳川家康は、「帰りたいものは帰ってよい。」と伝えた記録が残っているそうです。しかし先に述べた事情から、帰国を希望するものは六千人ほどしかいなかった。それなのに今でも、秀吉の朝鮮出兵を「人さらい戦争」という視点で見る史家がいるそうです。

 現在の北朝鮮による日本人拉致事件は、後世の歴史家にどのように解釈されるのでしょうか。エンタテイメント時代劇なのに、そんなことばかり考えて読んでしまいました。

 関連作品として、ソウル生まれの金薫著「孤将」をお薦めします。文禄・慶長の役で日本軍を撃退し、朝鮮を勝利へと導いた武将の生き様を、ていねいな取材と時代考証をもとにして描いた歴史小説です。韓国では50万部のベストセラーとのこと。主人公は教科書にも載っている韓国の国民的英雄、李舜臣です。しかし当時は、敵は日本軍だけではなく、妬み嫉みから足を引っ張ろうとする味方武将、配下の謀反を恐れ次々に有能な武将を処刑する臆病な王、援軍のふりをして朝鮮支配をたくらむ明軍の三つとも戦わなければならない、まさにタイトルどおり、孤独な将軍だったのです。自分が育て上げたわずかな直属の部下以外、誰も信用できず、それでも戦う悲劇的な将軍の姿は、涙を落とさずには読めません。

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» ◎◎「柳生薔薇剣」 荒山徹 朝日新聞社 1680円 2005/9 [「本のことども」by聖月]
 縁(えん)とか縁(えにし)とか一口で言っても、そこには様々な種類の縁が存在するような気がする。  例えば、司法試験とか憧れの大学を何回も受けて、結局は自分の身の丈にあった進路を選ばざるを得なかったとき、親戚知人が、もしくは本人が“縁がなかったんだよ”と慰めもしくは言い訳の言葉を口にするのは、これは縁ではない。能力がなかっただけ、もしくは努力が足りなかっただけの話である。  例えば、人気作家やプロ野球選手が、その実力は認められているものの、中々賞とかタイトルというものを取れない場合も、縁... [続きを読む]

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» 荒山徹のことども [「本のことども」by聖月]
◎◎ 『高麗秘帖』 ◎◎ 『魔風海峡』 ◎◎ 『魔岩伝説』   ○ 『十兵衛両断』   ◎ 『サラン 哀しみを越えて』 ◎◎ 『柳生薔薇剣』 [続きを読む]

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