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2005/07/03

堀江敏幸「河岸忘日抄」感想

 2001年に「熊の敷石」で芥川賞を受賞した作家さんです。

 以前、この人の「雪沼とその周辺」という作品を読んで、波長があうなと感じたので、今回の新作も読んでみました。やっぱり気に入りました。

 公園で倒れていた老人を助けたところ、お礼に船を住居として提供してくれるという設定は、いかにもありがちなのですが、その船がいいんですね。 以前の持ち主が置いていった某海外有名メーカー(ロジャースとかリンとかです・・・。いいなぁ。)のオーディオセットと、LPレコード351枚、それに数は多くないけど趣味の良い本。 さらに主人公はおいしいコーヒーと、卵料理が大好きで、クレープの焼き加減などプロ並み。 

 ああ、いれたてのコーヒーを飲みながら、いい音で良質な音楽を聴き、本を読む。 なんと至福のひとときなんだろう。 しかも主人公はある事情で現在休職中。 うらやましいよおぉ(心の叫び)。

 この理想的な環境で一人暮らす主人公を、郵便配達夫や謎の少女が訪れます。 そして、病に倒れ余命いくばくもない大家。 主人公と彼らとの間に交わされる、比喩をたっぷり含んだ会話が、また実に味わい深いのです。

 主人公はしばしば、「内爆」という言葉を使います。 他者との衝突を避けるため、ぐっと抑えてきた怒りの感情をどう処理するか。 川岸に浮かぶ船の中で、孤独な生活を送る理由がそこにあります。 そして最後に主人公は船を出ようと決意するのです。

 ドラマチックな展開はこれっぽっちもないのに、やさしく強い主人公の生き方に強く共感する作品です。  

    

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コメント

ほんとうらやましい暮らしですね。
CDやらLPがいっぱいあって、誰にもわずらわされず、珈琲を飲みながら、料理を食べながら音楽を聴けるなんて。
おだやかな内爆を誘発するために、年に1ヶ月くらいはそういう風に過ごしたいです。

投稿: toki | 2005/07/04 23:06

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受信: 2006/02/02 21:16

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